業界全体でVR/AR導入が広がる分野の1つが、自動車業界です。設計や製造工程にとどまらず、顧客体験の向上までその活用シーンは多彩です。本記事では国内外の自動車メーカーを中心に、VR/ARの活用事例を紹介します。フォルクスワーゲン:車両修理にAR導入、作業効率9割向上自動車メーカーのフォルクスワーゲン(Volkswagen)は、英国におけるディーラーでの車体修理にARヘッドセットを導入します。AR導入の一番の狙いは、修理工程を速め、顧客が車両を使えない期間を短縮することです。現場の技術者と本社の専門家が視界を共有し、図やコメントも用いたアドバイスをやり取り。作業時間を大幅に短縮します。同社によると、トライアルで修理の効率は93%も改善しました。車両を使用できないダウンタイムは1年分削減、金額にして25万ポンド(約3,400万円)に上ると言います。さらにサポートチームが現場に行く必要がないため、移動に伴うCO2の発生を抑制します。この効果は、二酸化炭素排出量2.5トン分相当です。トヨタ自動車:HoloLensで自動車整備作業を効率化トヨタ自動車株式会社のサービス技術部では、自動車の修理や点検業務において、MRデバイス「HoloLens」を活用しています。通常、現場のサービスエンジニア (整備士)は作業手順書や修理書という紙やWebマニュアルを参照し、自動車の整備作業を行っています。しかし現場では、資料は車種ごとあるため数が多く物理的に場所をとり、2Dのイラストでは内部の構造などが分かりづらい、といった課題がありました。これに対してHoloLensを用いると、該当する車種の3Dの作業手順書・修理書を現実空間に重ねて表示。作業を行う自動車の部位の上に作業手順が表示されるため、直感的に理解することが可能となります。トヨタは「新人や未経験の整備士でも短期間で質の高い作業が可能」としており、作業時間の削減に加え、整備士の作業技術レベルの標準化や作業品質の維持確保も見込んでいます。BMW:独自のスマートグラスで現場の技術者支援ドイツの自動車メーカーBMWは、ディーラーの技術者向けスマートグラス「TSARAVision Smart Glasses」を開発しました。デバイスを装着すると、図面等がレンズ上に映し出される仕組みです。スクリーンショット撮影や画像の拡大、そして音声操作に対応しており、作業者はハンズフリーで整備手順をチェックできます。さらに情報が必要な場合は、グラスを掛けたまま電話をかけることも可能です。BMWは全米のBMWセンターや一部のMINIディーラーへこの技術を導入、作業効率向上を実現します。トヨタ自動車:検査や設備移設でMR活用トヨタ自動車株式会社でのHoloLens活用シーンは多岐にわたります。事例の1つが、「塗装の膜厚検査での活用」です。従来はクルマの曲面に合わせた型紙を作製して一定間隔で穴を開け、測定器をあてて測定。そのデータに基づいて塗装設備を調整と、多くの手間と時間をかけていました。これをHoloLens導入により、試作車にバーチャルの測定点を重ねて表示し、その点に測定器を当て測る手法に変更しました。これにより、2人がかりで1日かけていた作業が、1人の作業者で2時間と、劇的な効率化が実現しました。もうひとつの取組事例が、工場の設備移設での活用です。大型レーザー溶接機の設備入れ替えのシミュレーションで、HoloLensとMRビジネスアプリケーション「Dynamics 365 Layout」を利用。実際に設備を移設する前に確認を行い、現場でのトラブルや余計の手戻りを防ぎます。パナソニック:VRで自動車のUI/UX検証効率化パナソニックグループのオートモーティブ社は、自動車用コクピットのヒューマン・マシン・インターフェイス(HMI)検証用VRシミュレーターを開発しました。VRシミュレーターを活用し、表示策定や意匠決定の効率化を図ります。シミュレーターはUIとUXを検証する2種類です。UIシミュレーションは、VRヘッドセットを用いてHMIを検証するためのもので、実際の操作とそれによる表示変化をインタラクティブに検証できます。一方、UXシミュレーションはVRヘッドセットを使わず、壁と床スクリーンに映像を投影。乗り込みから降車までの一連の乗車シーンを被験者が動きながら検証可能です。同社はこれら2種類のVRシミュレーターを活用して自動車用コックピットの搭載機器を開発、カーメーカーへ提案していきます。フォード:VR内スタジオで自動車設計、複数人対話も米国の自動車メーカー、フォードモーターカンパニー(フォード)は、VRテクノロジーを活用したミーティングを行っています。VR内の仮想スタジオに自社のデザイナーを集め、自動車の設計に遠隔で取り組めるようにしました。各デザイナーは3Dモデルの周囲に入り込んで間近でデザインを見ることができます。また参加者はVR内で立体的なロボットのアバターとして表示されるため、普通の画面上よりも自然に対話ができる、としています。フォードは将来的に3Dモデルにリアルタイムでの変更を可能にするなど、VR使用の拡大を目指しています。アウディ:顧客向けVRラウンジを各国で展開自動車メーカーのアウディ(Audi)は、VRを活用した顧客向けラウンジを導入しています。このVRラウンジにはアウディの各車種のデータに加え、ロケーションや時間設定機能も完備。利用者は好みのシチュエーションを選び、購入予定の車両がどのように見えるのか確認できます。さらにセールスコンサルタントの助言を受けつつ、アウディの各種車種や色の決定、オプション装備の取捨選択などを行います。VRラウンジは2019年時点、全世界で400以上の店舗に導入されており、今後も導入が増加する見通しです。ポルシェ:乗車中に楽しめるVR体験の導入計画ドイツの自動車メーカーであるポルシェは、自動車へのVRコンテンツ導入を計画しています。VRコンテンツはドライバー以外の同乗者が、走行中に楽しめるものとして開発されているとのことです。車両へのVR導入は、2021年の実現が計画されています。導入には、ドイツのスタートアップHolorideのVR技術とコンテンツを採用。HolorideのVRは2Dと3Dの切り替えが可能で、センサーが走行中の車両の動きを検知し、VR内に反映します。両社によれば、エンターテイメントや教育分野のコンテンツのリリースを予定しているとのこと。同時にディスカバリーチャンネルとのコラボレーションも発表しました。Holoride:車内向けVRコンテンツリリース、加速や移動距離も反映ドイツのスタートアップHolorideは、自動車内での体験を想定したVRコンテンツ「Universal Monsters Presents Bride of Frankenstein」(Frankenstein VR)をリリースしました。「Frankenstein VR」では、プレイヤーは登場する悪霊を退治し、夫(=いわゆるフランケンシュタインの怪物)の元へ届け物をする花嫁をサポートします。車両の動きを検知するシステムが搭載されており、加減速や方向転換を行うと、その動きがVR内に反映されます。体験時間は、車の目的地までの距離に応じ、自動で調整されます。この仕様によって、毎回異なるVR体験が楽しめます。The Insight Partners:2027年までの自動車産業向けAR/VR市場レポート市場調査会社のThe Insight Partnersからは、自動車産業向けAR/VRの分析レポート「Automotive AR and VR Market 2019 – Global Analysis and Forecasts 2027」が発行されています。本レポートでは、2017年から2027年までの自動車産業向けAR/VR市場をグローバルに分析。市場の進展を示しています。世界を5つの地域(北米、ヨーロッパ、アジア太平洋、中東、アフリカ、南アメリカ)に分けている他、タイプ/コンポーネント/アプリケーション/業界/エンドユーザーなどの市場の様々なセグメント別に論じています。またレポート中では、業界の専門家/キーオピニオンリーダーへのインタビューも実施。二次情報を検証、内部統計モデルを使用して、2019~2027年までの市場規模の予測を行っています。レポートの購入やサンプルのダウンロードはこちらから。VRソリューション導入・開発・コンサルはMoguraにご相談をVRを活用した業務改革は、今後さらに増えていく見込みです。しかし、VR/ARのソリューションは「既製品をそのまま導入すればよい」というものではなく、実際の現場に合ったものにするための新規開発や追加実装が必要な場合があります。株式会社Moguraが運営する開発・コンサルティングサービス「MoguraNEXT」では、VR/ARソリューションの開発・導入のご相談も可能です。今回、紹介したようなVR/AR活用事例は、現在社会問題となっている新型コロナウイルス感染症の対策としても有効で、対面接触を伴わないVRワークスタイルの提案・開発なども可能です。「MoguraNEXT」の実績・資料はこちらからダウンロード頂けます。VR開発・コンサルティングのご相談は、こちらまでお願いいたします。