“VR元年”と呼ばれた2016年以降、VRゲームをはじめとするエンタメから、産業・医療目的のものまで、さまざまなVRコンテンツが日々生まれています。また、スマートフォンはもとより、VRヘッドマウントディスプレイ(VRHMD)や360度動画カメラの普及・低価格化、VRコンテンツ制作ツールの充実などもあり、VRコンテンツ制作のハードルは以前と比べて格段に下がっています。そのような状況を踏まえ、例えば顧客向けのプロモーション用映像や社員研修用プログラムなどを、VRコンテンツとして制作・活用する企業も増えてきました。しかし、実際の制作費用・コストはVRコンテンツの種類や“中身”によって千差万別。そこで本記事では、VRコンテンツやソリューションの制作コストについて、「どのように考えるべきか」「何がポイントなのか」という面から解説していきます。【目次】1.VRコンテンツの制作フロー2.実写か3DCGか3.インタラクティブ性の有無4.トラッキングの有無5.対応デバイス6.誰のため・何のためのVRコンテンツか1.VRコンテンツの制作フローそれではまず、VRコンテンツの制作フローから見ていきましょう。VRコンテンツ制作フローは、大きく「実写ベースか」「3DCGベースか」で異なります。実写ベースの場合の制作フローはおおむね以下のようになります。(1) 企画(2) 撮影(3) スティッチング・編集(※スティッチングは次項で解説)(4) 配信/展示等一方、3DCGベースのVRコンテンツ制作フローは以下のようになります。(1) 企画やリサーチ(2) 3DCGのモデリングやプログラミング(3) (2)の成果を結合・統合して確認(4) (2)と(3)を繰り返す(5) 配信/展示等どちらも最初に企画ありきなのは変わりませんが、実写ベースのVRコンテンツでは実際にカメラを使って撮影に入るところが、3DCGベースのコンテンツでは、コンテンツ内で表示する3DCG(オブジェクトや背景まですべて)の制作過程に置き換わります。まずは企画内容に合わせ、VRコンテンツを実写ベースにするのか、3DCGベースにするのか、あるいは実写ベースの映像に一部3DCGを合成するのかなどを最初に決定することが重要です。■実写ベースの事例(「おうちで体験!科博VR」。国立科学博物館の展示をVRで楽しめる。VRゴーグルを使用してVR空間内で展示を楽しめるほか、スマートフォンやPCで通常の360動画として視聴することもできる)■3DCGベースの事例VRゲーム「リトルウィッチアカデミア -VRホウキレース-(仮)」。3DCG空間をホウキに乗って飛び回るVRレースゲーム。キャラクターや空間すべてがCGで描かれている。2.実写か3DCGか3DCGベースでVRコンテンツを制作する場合、オブジェクトや背景は既存のアセット等を使えば比較的安価で調達することもできます。ただし、企画にぴったり合致したアセットを見つけるのは簡単ではなく、多くの場合はゼロからの制作になります。また、3DCGをどこまで作り込むかによってもコストは異なります。さらに3DCGのモデリングやそれらを動かすプログラムの制作はたいてい複数人で制作することになるため、制作チームの規模によっても制作コストは変動します。(ユニティ・テクノロジーズが運営するunity Asset Store。2D/3Dのデジタルアセットが無料・有料問わず多数登録されている)一方、実写ベースの映像撮影についても、従来の2D映像とは異なり、VR空間を再現するために360度の動画が必要です(体験者が前方しか見ない前提のコンテンツであれば割り切って前面180度のみでもOK)。360度動画の撮影には専用のカメラのほか、従来のカメラを複数台使用して撮影する方法などがありますが、こちらも機材の性能や構成により費用は変化します。また、撮影した映像を360度動画にするためにつなぎ合わせる「スティッチング」という工程が必要なため、従来の2D映像に比べると映像編集コストは高めになります。(スティッチングされた動画の例。ツールや作業者の性能・スキルによりクオリティの差がまだまだ出やすい。※引用元:株式会社ユニモト「ぐるりVR」公式サイト)ただし、実写ベースの撮影においては既存の光景を撮影することや、カメラマンが1人~少人数で済むことなどから、3DCGベースのVRコンテンツに比べて映像面でのコストは安くなる場合が多いです。3.インタラクティブ性の有無VRコンテンツにインタラクティブ性を持たせるかどうかも制作コストに影響します。インタラクティブ性とは例えば、VR空間内にあるオブジェクトに触れることができたり、触れた物体が動いたりなどの反応を示したりすることです。その他、ゲームのように選択肢や操作アイコンなどを出現させ、体験者の操作によって表示される映像が変化したり、ストーリーが分岐するのもインタラクティブ性のあるVRコンテンツです。こうしたインタラクティブ性を持たせるにはそのためのプログラムや操作画面、操作に対応した複数のオブジェクトや映像などが必要になるため、当然そのぶん制作コストが上昇します。逆に映像を視聴するだけのVRコンテンツであれば制作コストの上昇は抑えられますが、体験者の没入度や、映像視聴による学習の定着度はインタラクティブ性のあるコンテンツより低くなる可能性があります。(学習効果の定着率を示す「ラーニングピラミッド」。講義や読書などの座学より、実際に自身で体験したことのほうが学修定着率が高いとされる。※引用元:名古屋商科大学公式サイト「アクティブラーニングとは」)4.トラッキングの有無3.のインタラクティブ性にも関わりがありますが、トラッキングの有無も制作コストに影響します。トラッキングにはVR体験者の位置を取得するポジショントラッキング、手の動きをVR空間内で再現・追従するハンドトラッキング、VR体験者の視線を追従するアイトラッキングなどがありますが、いずれもコンテンツに実装するにはそのためのデバイスやプログラムが必要で、その度合いに応じて制作コストも上昇します。トラッキングの有無も他の要素と同様、VRコンテンツの目的や費用対効果を考えながら採用する・しないを決めるとよいでしょう。(FacebookのVRヘッドセット「Oculus Quest」にはVR空間内で手の動きを再現するハンドトラッキング機能がある。2019年に発表され、ベータ版を経て2020年5月に正式実装になった)5.対応デバイスVRコンテンツの体験には、スマートフォンを差し込んで使うVRゴーグルのような廉価なものから、Oculus QuestやVIVE Proに代表されるようなVRヘッドセット、さらにはゲームセンターにある専用の大型筐体のようなものまで、さまざまなデバイスが利用できます。デバイスによって当然制作コストも変わってきますので、どのデバイスで利用するのかも企画段階で決定しておく必要があるでしょう。基本的には汎用性・普及率の高いデバイスほどコストを安く抑えることができます。なお、各社から販売されているVRヘッドセットも、実は機種ごとに画面の解像度やトラッキング性能に差があります。VRコンテンツへの没入感を高めるためには機種ごとにコンテンツを最適化するのが望ましいため、対応デバイスを増やすごとに制作コストも上がることは覚えておきましょう。6.誰のため・何のためのVRコンテンツかVRコンテンツの制作コストに影響を与える要素についてここまで述べてきましたが、VRコンテンツ制作においてもっとも重要なのは、「何のため・誰のためのVRコンテンツなのか」ということです。映像のクオリティを上げたり、体験できることの数をいたずらに増やしたところで、必ずしもかけたコストに見合った成果・効果が得られるとは限りません。必要以上に作り込みすぎることで逆に体験者の没入感や体験効果が低下してしまう、という可能性もあります。VRコンテンツの制作にあたっては、その目的や内容を最初にしっかり決め、それに合った必要十分な仕様に収めることを強く意識しましょう。VRソリューション導入・開発はMoguraにご相談を株式会社Moguraが運営する開発・コンサルティングサービス「MoguraNEXT」では、事業にVRを活用したいと考えている企業様向けに、VR/ARソリューションの開発・導入のご相談を承っています。VRコンテンツ/ソリューションを開発・提供するVR/AR企業へのご紹介はもちろん、弊社によるワンストップでのコンテンツ/ソリューション提供も可能です。ぜひ一度ご検討ください。「MoguraNEXT」の実績・資料はこちらからダウンロード頂けます。VR開発・コンサルティングのご相談は、こちらまでお願いいたします。(参考)映像産業振興機構「VR等のコンテンツ制作技術活用ガイドライン2018」